内縁関係でパートナーが亡くなったときの相続・遺言の備え方

「結婚はしていないけれど、一緒に暮らして長い」という方は、今や珍しくありません。近年では、法的な婚姻関係を持たないまま、内縁(ないえん)関係を築くカップルも増えています。
しかし、いくら長く連れ添っていても、“婚姻している夫婦”とはみなされないのが日本の法律です。 そのため、パートナーの死別という悲しい現実に直面したとき、内縁関係だからこそ起こりうる相続のトラブルやリスクがあるのです。
この記事では、内縁関係における「パートナーの死後に備えるための遺言と相続のポイント」について、行政書士の視点からわかりやすく解説いたします。大切なパートナーを思う気持ちを、きちんと形にしておくための手がかりとしてお役立てください。
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内縁関係とは?法律上の立場を確認しましょう
内縁関係とは、戸籍上の届出(婚姻届)がないものの、事実上、夫婦同然の共同生活をしている関係のことを指します。日本では、法律上「婚姻」とは認められていないため、内縁のパートナーには相続権がなく、亡くなった方の遺産を自動的に受け取ることができないのです。
たとえば、一緒に生活して長年支え合ってきたとしても、法律上の配偶者ではないため、残されたパートナーは相続人にはなれません。これは、内縁関係にある方にとって特に大きな問題であり、将来的な生活設計をするうえで、非常に重要な関心事になります。
さらに、法律上の夫婦ではないため、周囲の親族や第三者からの理解を得にくく、場合によってはトラブルになることもあります。このため、内縁のパートナーが亡くなった後の生活や住居を守るために、一歩踏み込んだ備えが必要となります。
内縁のパートナーの死後に直面する問題とは?
内縁関係のパートナーが亡くなった場合、まず問題となるのは「相続権がない」ことです。 たとえば、自宅や預金などの財産をパートナーと一緒に築いてきたとしても、法律上は相続人として認められないため、遺産を引き継ぐことができないのです。
また、残された内縁の配偶者が、突然住む家を失ってしまう…というリスクも考えられます。 パートナーの名義で所有していた自宅に住んでいたとしても、その家が相続人である親族に引き渡される可能性があるからです。
さらに、パートナーに子どもがいる場合、その子どもには相続権があります。遺言書がないと、法律では子どもが優先的に財産を受け取ることになるため、結果として内縁のパートナーは財産を受け取れないという厳しい現実を突きつけられることになります。特に、パートナーに前妻や前夫との間に子どもがいる場合は、内縁のパートナーの生活基盤や住まいが奪われるリスクが高くなります。こうした現実は、内縁のパートナーにとって大きな不安材料となり得ます。
遺言書の重要性 ―「遺言で想いを現実に」
こうしたリスクを避けるために有効なのが「遺言書(いごんしょ)」です。遺言書を作成すれば、法定相続人以外にも遺産を分けることが可能であり、相続で起こりがちなトラブルを未然に防ぐことができます。内縁のパートナーに対しても、遺産の一部または全部を残すことができるのです。
さらに、遺言書を通じて、住む場所の確保も可能になります。こうしたことで、残されたパートナーが将来の不安を少しでも軽減し、安心して暮らしを続けられる可能性が高まります。また、遺言書の存在は親族間の意見の食い違いを抑え、トラブルを回避するための大切な手段ともなります。
しかし、遺言書がない場合、遺産は法律で決められた相続人(配偶者や子ども、親、兄弟姉妹など)に分配されます。この仕組みの中で、内縁のパートナーは法律上の立場がなく、遺言がなければ一切の財産を受け取れないという厳しい現実に直面します。
遺言書の種類と作成のポイント
遺言書には大きく分けて3つの種類があります。
- 自筆証書遺言:自分で書くことができるため手軽に作成できる方法ですが、書き方には法律上の厳密なルールがあり、それに沿わない場合は無効になる可能性が高くなります。また、書いた本人の署名・押印が必須であるなど、細かい注意点も多くあります。
- 公正証書遺言:公証役場で公証人が作成してくれる形式で、内容や形式に不備が生じないように慎重に確認され、争いになりにくいという大きな利点があります。さらに、公証人が遺言内容を慎重に確認しながら作成するため、将来的に遺言が無効になるリスクを大きく下げることができます。加えて、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配もなく、非常に安心です。
- 秘密証書遺言:内容を秘密にしながら作成できる方法ですが、あまり使われることはありません。秘密証書遺言は、遺言者の希望を一定の範囲で守ることができますが、開封時の手続きや形式に注意が必要で、やや手間がかかる面もあります。
それぞれにメリット・デメリットがありますが、内縁関係の場合は公正証書遺言が特におすすめです。公証人が内容を確認して作成してくれるため、将来無効になるリスクがほとんどなく、さらに公証役場での原本保管により紛失や改ざんの心配も少ないことから、大きな安心感が得られます。
遺言でも限界がある― 遺留分との関係
「遺言があればすべて解決!」と考えがちですが、実は遺言書にも“限界”があります。 それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。
遺留分とは、法律で決められた相続人(配偶者や子どもなど)に保証されている最低限の取り分のこと。 もしパートナーに子どもがいる場合、その子どもには遺留分が認められています。 つまり、パートナーが「すべてを内縁の配偶者に渡したい」と遺言書に書いても、子どもが遺留分を請求すると、一定の財産はその子どもに渡ることになります。
遺留分をめぐるトラブルは複雑です。以下に、法定相続人ごとの遺留分の割合をまとめた表を示します。
法定相続人の範囲 | 遺留分の割合 |
---|---|
配偶者や子どもなどの直系卑属 | 1/2 |
父母などの直系尊属のみ | 1/3 |
兄弟姉妹 | 遺留分なし |
遺言書の作成時には、行政書士などの専門家に相談することで、できるだけスムーズな遺産分配を実現する道を見つけることができます。
遺言書で、生活拠点の確保も可能になります
遺言書によって財産の一部を残せても、「住む家を追われる」という可能性もあります。 たとえば、内縁のパートナーが住んでいた家が亡くなった方の名義である場合、その家を相続した親族から「出て行ってほしい」と言われるケースが現実に起きています。
この点を踏まえて、遺言書では「自宅に住む権利」についても明記しておくことが大切です。 たとえば、「遺言でこの家を贈与する」と記すことで、安心して住み続けられる環境を整えられることが可能になります。ただし、他の相続人の権利が絡むこともあり、必ずしもそうなるとは限りません。
パートナーが亡くなる前にできる準備
内縁のパートナーの死後に起きるトラブルを防ぐには、元気なうちに話し合いをしておくことが大切です。自分たちの将来や相続についてどのように考えているか、お互いの希望を確認し合うことが何よりの備えになります。
「遺言書を作ろうと思っているけれど、どうしたらいいかわからない」 「お互いの親族との関係も考えると不安がある」 こうした悩みは多くの方が抱えています。さらに、内縁のパートナーとしてどこまでの手続きが可能なのか、何をすればよいのか迷う方も多いです。
行政書士は、こうしたお悩みをお聞きし、遺言書の作成やその他必要な手続きをサポートします。加えて、相続に関わる親族間の調整やトラブル防止のためのアドバイスもいたします。
このような準備をしておくことで、パートナーの未来を守ることにもつながります。また、こうした準備は、内縁関係におけるパートナーと亡くなったパートナーの親族とのトラブルを防ぐことにもつながります。
まとめ
内縁関係のまま長年連れ添ってきたパートナーとの死別は、深い悲しみとともに、思いもよらぬ問題を引き起こすことがあります。これには、住まいや生活費、預貯金、さらには家族との関係など、日常生活のあらゆることが含まれます。
しかし、遺言書をしっかり作成しておくことで、大切な人に想いを届け、住まいと生活を守ることができます。さらに、遺言書を準備することで、パートナーが安心して老後を過ごすための基盤作りにもつながります。また、将来のパートナーと親族間のトラブル防止にも役立つでしょう。
行政書士として、多くのご相談を受ける中で感じるのは、遺言書は“愛情の形”であると同時に、“生活の安心”を支えるものだということです。法律の仕組みを理解しながら、あなたの想いをきちんと形にするお手伝いをいたします。
相続や遺言に関する疑問だけでなく、親族との調整や安心して生活を続けるための相談も承ります。もしご不安やお悩みがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください
小川たけひろ行政書士事務所 では、離婚・遺言・相続のお困りごとに、あなたに寄り添うサポートを行っています。 一度きりの人生、後悔のない形を整えるために、一緒に考えてまいりましょう。
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