ローンが残る不動産をどう扱う?複雑なケースをわかりやすく解説!

離婚時の財産分与で特に難しいとされるのが、不動産の扱いです。

多くの場合、不動産にはローンが残っており、その処理が夫婦間での大きな課題となります。

不動産は高額であり、現金や預貯金と違って簡単に分割できません。

また、ローンが関わる場合、金融機関の承認や複雑な手続きが必要になるため、話し合いだけで解決することが難しいケースがほとんどです。

本記事では、ローンが残る不動産の財産分与について具体的な方法と注意点を分かりやすく解説します。


財産分与とは?基本的な考え方

まず、財産分与とは、結婚生活の中で夫婦が共同で築き上げた財産を、公平に分配するための手続きです。

財産分与の対象は、現金や預貯金だけではありません。不動産や車、家財道具、有価証券、生命保険、さらにはペットまでが対象となります。

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財産分与の基本ルール

財産分与の基本的なルールとして、婚姻期間中に形成された財産(共有財産)が対象となり、以下のような財産が含まれます。

現金・預貯金

不動産

自動車

家具や家電製品

株式や債券などの有価証券

生命保険の解約返戻金

ペット(法律上は動産として扱われる)

一方、婚姻前に持っていた財産や、相続・贈与によって得た財産(特有財産)は基本的に財産分与の対象外です。

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財産分与の割合

財産分与の割合は、夫婦間の協議で決定することが一般的ですが、多くの場合は50:50とされています。

ただし、婚姻期間の長さや夫婦の貢献度、経済状況によって割合が変わる場合もあります。


ローン付き不動産の財産分与について基本的な考え方

不動産の財産分与が特に煩雑になる理由は、ほとんどの場合、その不動産にローンが絡んでいるからです。

ローンがある不動産を財産分与する場合、不動産の正確な価値を把握し、夫婦でどのように分配するかを決めることが大きなポイントとなります。

さらに、ローンの存在は夫婦間だけでなく金融機関との調整も必要になるため、慎重な検討が求められます。

以下では、不動産の財産分与を進める際に必要な基本的な考え方を見ていきます。

「ローン残高」と「不動産の時価」の関係

不動産の財産分与を考える際には、まず以下の2つを明確にする必要があります。

  • ローンの残高:離婚時点で不動産に残っているローンの金額。
  • 不動産の時価:不動産の現在の市場価値。

財産分与の対象となるのは、不動産の時価からローン残高を差し引いた部分になります。

財産分与の対象になる部分とは?

たとえば、不動産の時価が2000万円、ローンの残高が1000万円の場合、2000万円 – 1000万円 = 1000万円が財産分与の対象となります。

この金額を夫婦の財産分与割合(通常は50:50)に基づいて分け合う形になります。

一方、不動産の時価よりもローン残高が上回っているオーバーローンの場合、財産分与の対象となる財産とはなりませんが、不動産そのものをどのように扱うかを話し合う必要があります。


ケース別に考える不動産分与の方法

では、実際にケースごとに見ていきます。

ローンより不動産価格が高い場合

この場合、不動産には、財産としての価値があるため、以下の2つの方法が考えられます。

不動産を売却して現金化する方法

不動産を売却して、売却益からローンの残債を返済し、残った金額を分与します。

【例】

  • 不動産の時価:2000万円
  • ローン残高:1000万円
  • 財産分与割合:夫50%、妻50%

売却後、2000万円 – 1000万円 = 1000万円の利益が残り、それを夫婦で50%ずつ分ける形となります。

一方が不動産を取得する方法

不動産を夫婦の一方が取得し、もう一方に資産部分に応じた金額を支払う方法です。

【例】

  • 不動産の時価:2000万円
  • ローン残高:1000万円
  • 財産分与割合:夫50%、妻50%
  • 夫が不動産を取得

2000万円 – 1000万円 = 1000万円の資産のうち、妻の取り分は500万円です。

夫は妻に500万円を支払い、不動産の所有権を得ます。そして、以後のローン返済は夫が負担します。

ローンの残高が不動産価格を上回る(オーバーローン)場合

不動産の価値よりも住宅ローンの金額の方が大きい場合、不動産を売却してもローンを完済できません。この状態をオーバーローンといいます。

オーバーローンの場合、不動産の資産価値はマイナスです。このような場合、財産分与の対象にはなりませんが、不動産をどうするのかについて話し合いが必要です。

ただし、オーバーローンの場合、次の2つの点について注意する必要があります。

原則として売却が認められない

ローンを利用している場合、不動産を売却する際には、その代金でローンを完済する必要があります。

理由は、不動産を売却するには、その不動産に設定されている「抵当権」を解除する必要があるからです。

「抵当権」が付いた不動産では買い手がつかないからです。

抵当権を解除するためには、ローンを完済するか債権者(金融機関)の承諾が必要になります。

しかし、住宅ローンを完済できないのに抵当権を解除すると、残債が無担保になってしまうので、金融機関は抵当権の解除を承諾してくれません。

結局、ローンを完済できない場合には、不動産を売却することができないのです。

債務者の変更、名義人の変更も原則不可

不動産のローンを完済できず、売却できない場合、不動産とローンを夫婦のどちらかの名義にすることが考えられます。

しかし、この場合も債権者である金融機関の承諾が必要になります。

なぜなら、金融機関は、ローンを審査した際、配偶者の収入や勤務先、借入状況などをもとに審査して融資を決定しているからです。

つまり、債務者が変わると、その債務者が残債を支払っていけるのかがわかりません。

そのため、新たな債務者に支払い能力があると判断されない限り、債務者の変更を認めません。

また、ローンが残っている間は、抵当権の対象となっている不動産の名義を変更することも、原則としてできません。

債務者名義の不動産に抵当権を設定しておくことで、心理的に弁済を促すという効果がなくなってしまう可能性があるからです。

離婚の際、オーバーローンの不動産をどう扱うのか?

では、離婚の際、オーバーローンの不動産をどのように扱えばいいのでしょうか。

一括返済を条件に不動産を売却する

たとえ、オーバーローンの状態であっても、ローンの残債を返済できるのであれば、一括返済を条件として不動産を売却できる可能性があります。

用意できる資金と不動産の売却代金を併せることで完済できることを示して債権者(金融機関)と交渉してみましょう。

債権者としても、一括返済と売却益でローンが早期に返済されるなら、応じてくれる可能性が高いです。

ローンの債務者でない方が不動産を取得してローンも借り換える

ローンの債務者が、離婚後も住み続けるなら問題はありませんが、問題は、ローンの債務者ではない方がそのまま住み続ける場合です。

この場合、現在のローンの残債を、ローンの債務者でない方が新たなローンを組み、その資金で現在のローンを完済してしまうという方法があります。

こうすることで、不動産の名義もローンの名義も変えることができます。

ただし、この場合も、新たなローンを組むために、審査が行われます。

そのため、審査に通らなければこの方法は使えません。

共有名義の不動産の場合はどうするのか

マイホームのローンを組む場合、夫婦のそれぞれが、金融機関とローン契約を結び、それぞれが、相手の連帯保証人となることで不動産の購入資金を受ける方法をペアローンといいます。

最近では、マイホームを購入する際に、ペアローンを利用する夫婦も多くなっています。

ペアローンを組む場合、夫婦それぞれがローンの名義人となり、不動産の名義は夫婦の共有名義となります。

ペアローンを利用している夫婦が離婚する場合、ローンの一括返済ができれば問題ありませんが、一括返済できない場合はどうすればいいのでしょうか。

こうした場合、使用貸借契約や賃貸借契約を結んで、住み続ける方が、相手に対して無償(使用貸借契約の場合)または、共有持ち分に応じた賃料相当額を支払う(賃貸借契約の場合)などの取り決めをします。

ローンについては、現状どおり、それぞれが返済していくことになります。

不動産の財産分与でつまずかない躓かないための3つのポイント

不動産の正確な評価をしましょう

財産分与を行う際、まずは、対象となる不動産の価値を算出しなければなりません。

不動産の時価を正確に把握するためには、不動産業者による査定や不動産鑑定士の評価を依頼することが不可欠です。

不動産業者の査定にかかるスピードは速く、市場価格の目安を知るうえでも非常に参考になります。

一方、不動産鑑定士による評価はより詳細で専門的ですが、費用とある程度の時間がかかることがあります。

そのため、不動産の規模や、、離婚までの時間、経済状況に応じてどちらを選ぶかを検討すると良いでしょう。

また、固定資産税の評価額は時価とは異なる場合が多いため、評価額を基準とすると後悔してしまうことがあります。

固定資産税の評価額は行政機関が課税のために算出した金額であるため、市場価格と大きな差が生じている場合が多いのです。

固定資産税の評価額はあくまで参考資料として用いるにとどめ、実際の売買や分与をする場合には、専門業者や不動産鑑定士などを利用して、適正な評価してもらいましょう。

金融機関との接触を切らさないようにしましょう

不動産のローンが関わる場合、金融機関の承認や報告が必須となります。

特に、名義変更やローンの引き継ぎ、借り換えをする場合には、離婚までの時間を考え、早期に金融機関との話し合いを始めることが重要です。

金融機関から一括返済、それに伴う名義変更について承諾を得るには、返済計画が現実的かつ持続可能であることを示す必要があります。

このため、最新の収入証明やローン返済計画書の準備が求められる場合もあります。

また、金融機関との連携を怠ると、離婚後のトラブルを引き起こす可能性があります。

たとえば、ローンについて何も取り決めをしないまま離婚すると、元配偶者に対して不必要な責任が残る場合もあります。例えば、配偶者がローンの連帯保証人になっているような場合です。

こうしたリスクが考えられる場合でも、事前に金融機関に相談して、アドバイスを受けることで、不測の損害を回避することが可能となります。

このようなことから、ローンの残債がある夫婦が離婚をする場合には、債権者である金融機関との連携を密にしておくことをおすすめします。

話し合いの結果に応じて専門家を活用しましょう。

夫婦間の話し合いで合意した場合は、行政書士に依頼して離婚協議書や財産分与契約書などの正式な文書を作成してもらうことをお勧めします。

この文書は、後のトラブルを防ぐために法的効力を持つ内容で作成されるべきです。

合意内容には、不動産の所有権やローンの責任分担について具体的に明記することが重要です。

一方で、話し合いが難航する場合や、すでに争いになっている場合には、早急に弁護士に相談することが賢明です。

弁護士は、法的な視点から問題を整理し、公平かつ合理的な解決策を提示してくれます。

裁判所を介した調停や訴訟に発展する可能性がある場合でも、弁護士のサポートがあればスムーズに進めることができます。

また、専門家を活用することで、感情的な対立を最小限に抑え、迅速に不動産の問題を解決することが可能です。

まとめ

ローンが残る不動産の財産分与は非常に複雑であり、難易度も高く、その結果、トラブルになることも多いのです。

特に、不動産の価値評価、財産分与の割合を巡るトラブル、ローンの残債の負担をどうするか、そして、金融機関との協議や必要書類の準備など多岐にわたる課題が付きまといます。

こういった課題が、冷静な判断を奪い、さらなるトラブルを招いてしまうこともあります。

こうした場合、適切な専門家の助けを借りることが重要です。

専門家のアドバイスを受けることで、問題解決に必要な手続きをスムーズに進めることができます。

不動産鑑定士は不動産評価、行政書士は、必要な文書の作成をサポートしてくれます。

また、弁護士が介入することで、双方の意見を公平にまとめ、法的なリスクを最小限に抑えた解決策を見つけることが可能です。

さらに、金融機関との連携を密にしておくことで、スムーズな解決が可能となります。

感情的な対立を防ぎつつ、双方が納得できる形で解決を目指すためにも、専門家の支援を活用しながら、進めていくことをおすすめします。

当事務所では、財産分与についてのご相談、離婚協議書、公正証書の作成サポートなどを承っております。

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