払い過ぎた婚姻費用は取り戻せるのか?

別居中の配偶者に婚姻費用支払っていたが、どうやら一般的な相場よりもだいぶ多く支払っていたようだ。取り決めのときに、一般的な相場を調べず、相手に要求されるままに支払っていた。
でもこんな状況が長く続いていることで、生活が困窮している…。何とか多く支払っていた分を取り戻すことはできないだろうか。…。
こういった場合、婚姻費用を負担してきた配偶者は、払い過ぎた分を取り戻すことは可能なのでしょうか。
また、取り戻すことができるとしたら、どのような方法があるのでしょうか。
婚姻費用とは?
別居中の夫婦や未成熟子が生活するために必要な費用を、収入や資産に応じて収入の多い方が少ない方に支払うものが「婚姻費用」です。
婚姻費用の負担は、夫婦の収入や資産状況に基づいて配分されるべきとされています。
そして、婚姻費用の金額を決定する際には、裁判所が作成した「婚姻費用算定表」という“世間の相場”を参考にすることが一般的です。
この算定表は、夫婦の収入や子どもの人数、年齢などを考慮して作成されており、夫婦間の負担割合を合理的に算出するための指針となります。
ただし、この算定表はあくまで目安であり、実際の取り決めは各家庭の個別事情を考慮して行われることが多いのが実情です。
さらに、婚姻費用には、家賃や光熱費、教育費など、家庭生活に必要な広範な費用が含まれるため、夫婦間でしっかり話し合いをすることがトラブル回避につながります。
算定表の額を超えて支払った婚姻費用は取り戻せるのか?
婚姻費用は「婚姻費用算定表」を参考に、その金額程度で取り決められることが多いです。
しかし、中には算定表の額を大きく超えて婚姻費用を支払っている場合もあります。
支払い期間が長期化すると、特に子どもの成長とともに負担額が増大し、支払う側の経済状況を圧迫することがあります。
その結果、「婚姻費用算定表をもとに無理のない額で合意しておけばよかった。払い過ぎた分を取り戻せないだろうか?」と考えることもあるでしょう。
では、払い過ぎた婚姻費用を取り戻すことは可能なのでしょうか?
取り戻せる可能性はあるが、確実ではない
婚姻費用には「養育費・婚姻費用算定表」に基づく一定の基準(目安)がありますが、実際には家庭ごとの事情を考慮し、算定表の金額をそのまま適用するわけではありません。
そのため、算定表より高額な婚姻費用の合意があった場合でも、「夫婦間で話し合い、合意した金額である」と受け取る側が主張することが多く、取り戻しが難しいケースが大半です。
払い過ぎた婚姻費用を取り戻せる場合とは?
払い過ぎた分を取り戻せる可能性があるのは、「当事者双方の収入や生活状況に照らして、著しく相当性を欠く場合」とされています(大阪高裁平成21年9月4日決定)。
相当性を欠くとは、世間一般の常識としてふさわしくない、つまり誰が見てもそれはおかしいよね。と考えることをいいます。
結局この裁判では、算定表に基づく金額よりも4〜10万円多く支払ったケースでは、著しく相当性を欠く(「それは払い過ぎだよね。」)とは判断されませんでした。
しかし、この著しく相当性を欠く場合の解釈は夫婦の経済状況などにより、一概に判断することは難しいです。
取り戻すための方法
取り戻す方法として、裁判例では「財産分与の前渡し」として評価し、財産分与の過程で調整することが認められる場合があります。この方法は、支払った金額があくまで前渡しであり、最終的な財産分与の計算時にその額を差し引くという形で調整されます。
例えば、将来離婚する際に、財産分与の過程で払い過ぎた分を相殺する方法です。
この場合、実際の相殺額は、双方の資産状況や共有財産の総額などを基に、裁判所が合理的な判断を下します。
ただし、財産分与はあくまで財産の公平な分配を目的とするため、相殺額が過度に大きいと判断される場合は、調整が行われる可能性もあります。
しかし、裁判所が前述のような判断をしたからといって、相手が拒否する場合、取り戻しは大変困難なのが実情です。
相手側が、「支払いは完全に話し合って決めた金額だから」と主張されれば、取り戻しは難しいでしょう。
こういう主張をすることで、かえって感情的な対立が深まり、解決が遠のいてしまう可能性もあります。
そのため、どうしても払い過ぎた金額を取り戻したいと考えるなら、最初から対決姿勢で臨むのではなく、譲歩するところは譲歩して、希望する金額100%ではないものの、早期に合意形成を目指すことが得策かもしれません。
まとめ
婚姻費用を決める場合、婚姻費用算定表を参考にして取り決める場合が多いと思います。
しかし、算定表より高い婚姻費用の合意をすると簡単には取り戻せず、後々後悔することになるかもしれません。
婚姻費用の取り決めをするときには、婚姻費用算定表をもとに、お互いの収入や家庭の現状を把握して無理のない取り決めをしましょう。
そして、取り決めをしたなら、不要なトラブルを回避するためにも離婚協議書や合意書などを作成しておきましょう。
できれば、公正証書など証明力の高い文書にしておくことでトラブルを回避することが可能となります。
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