養育費増額のリアルな本音とトラブル防止策

離婚後に取り決めた養育費。けれど、子どもの成長や生活環境の変化によって「この金額では足りない…」と感じることも少なくありません。そこで検討されるのが「養育費の増額請求」です。しかし、受け取る側・支払う側それぞれに本音や事情があり、思わぬトラブルに発展するケースも…。

本記事では、養育費増額の基本ルールを整理したうえで、双方のリアルな本音やトラブル回避のためのポイントを解説します。

そもそも養育費は増額できるのか?基本ルールを再確認

まず前提として、「一度決めた養育費は変更できない」と思っている方も多いですが、実は変更自体は可能です。
ただし、誰でも好きなタイミングで自由に増額できるわけではない点に注意が必要です。

養育費の増額が認められるには、法律上「事情の変更」という要件を満たす必要があります。
この「事情の変更」とは、養育費を決めたときには予測できなかった事情が、その後に生じた場合を指します。

たとえば、

  • 離婚時には健康だった親が重い病気になり、働けなくなった
  • 子どもが私立に進学し、予想以上に学費がかかるようになった
  • 支払う側が予想を超える収入アップを果たした

こうしたケースで、「当初の養育費では対応できず、不公平である」と判断されれば、増額が認められる可能性があります。

逆に、「生活がちょっと苦しくなったから」といった漠然とした理由では、増額は認められません
この点をしっかり押さえておくことが重要です。

増額を求める側の本音と事情

離婚後の生活が想像以上に厳しい

離婚時に取り決めた養育費額は、その時点の想定に基づいたものです。
しかし実際に離婚後の生活を送ってみると、「思った以上にお金がかかる」と感じるケースは非常に多いです。

特に、ひとり親家庭では収入面での不安定さ雇用形態の変化が起きやすく、当初の見通しが崩れることは珍しくありません。さらに最近は物価や教育費の高騰もあり、「離婚時の養育費ではとても追いつかない」という切実な声が増えています。

子どもの教育費が予想以上にかかる

小さい頃はそれほどお金がかからなかった子どもも、中学・高校・大学と進むにつれて教育費が一気に膨らみます
特に最近は塾通いや習い事が“当たり前”になりつつあり、月に数万円単位で教育費が増えることも珍しくありません。

「塾や習い事の費用だけで毎月3万円~5万円、模試や参考書も合わせると教育費は想像以上。子どもが『行きたい学校がある』と言っているのに、お金が理由で諦めさせるのは親として本当に辛い。」といった切実な声を聴くことも多くなりました。

支払う側が「稼いでいる」と知ると不公平と感じる

元配偶者の収入や生活レベルを知る機会があると、「同じ親なのに、なぜ私だけこんなに苦労するの?」という感情面の不満が強まります。

たとえば、「元夫のSNSに海外旅行やブランド品の写真がズラリ…。子どもに欲しいものを我慢させている私は何なんだろう…。やるせなくなる……。」こうした、SNSの投稿や共通の知人から、元配偶者の豪華な生活を耳にすると不公平感が増してしまうことがあります。

増額を拒否する側の本音と事情

再婚して新たな家庭を支えている

支払う側も、離婚後は離婚前とはまったく異なる人生を歩んでいます。
離婚という大きな節目を経て、新しい生活をスタートさせるだけでも相当なエネルギーが必要ですが、その中で再婚して新たな家庭を築くケースも珍しくありません。

再婚相手との間に子どもが生まれれば、当然ながらその子どもの養育費や教育費、日々の生活費もかかります。
家族が増えれば、住まいを広くしたり、車を買い替えたりとライフスタイルそのものが変わることもあります。

そんな状況で、元配偶者から「養育費を増額してほしい」と求められると、新しい家庭の生活設計まで揺らぐことになりかねません。

支払う側からすれば、「現在の家族も守らなければならない」という強い責任感があるため、「前の家庭のために今の家族に我慢を強いるのか」という葛藤を抱えることもあります。
特に、新しい配偶者が元の家庭への養育費支払いにあまり理解がない場合、家庭内の不和につながるケースもあります。

もちろん、「子どものため」という気持ちはあるものの、すでに取り決めた養育費をきちんと支払っている以上、
「さらに負担を増やすのは納得できない」という本音もあるのです。再婚後の家庭も大切にしたいという思いと、前の家庭の子どもへの責任の狭間で、精神的にも大きなプレッシャーを感じている支払う側は決して少なくありません。

「一度決めた額を守っているのに」と不信感

養育費は、離婚時に双方が時間をかけて話し合い、お互いに納得した上で金額を決めたはずです。
場合によっては弁護士や専門家を交えて、慎重に条件をすり合わせ、「これなら支払い続けられる」というラインを見極めて合意したという方も多いでしょう。

それにもかかわらず、数年経ってから突然「やっぱり足りないから増額してほしい」と言われると、
支払う側としては「せっかく合意した約束を一方的に反故(ほご)にされた」ように感じてしまうのは、無理もありません。

特に、「当時、話し合いをしたときには、将来の教育費や物価上昇も考慮した上で決めたのではないのか」と感じる方も少なくありません。「約束したことを守ってコツコツ支払ってきたのに、なぜこちらばかり負担が増えるのか」と不公平感不信感を抱くきっかけにもなります。

こうした気持ちがこじれてしまうと、「増額交渉=一方的な要求」と捉えられ、話し合い自体を拒否する流れになってしまうこともあります。本来、養育費は「子どものため」のものですが、こうした感情のすれ違いが、結果的に子どもの利益を損なうことにもなりかねません。

過去に合意した約束への思い入れが強いほど、「この合意が崩れるなら、今後の話し合いも無意味では?」と極端に考えてしまうこともあります。そのため、増額を求める側は「一度決めた約束を覆す」ことの重みもきちんと理解し、
単に「足りないから増額して」ではなく、「こういう事情があって、今のままでは子どもの生活に支障が出る」と、
事情の変化を冷静に、具体的に説明する努力が求められます。

生活が楽ではない

「養育費を払っている=経済的に余裕がある」と思われがちですが、実際には支払う側も決して楽ではないケースは非常に多く見られます。
特に、離婚後に自分自身の生活を立て直すために住まいや仕事を変えたり、新たな家庭を築いたりしている場合、その負担は想像以上です。

さらに、最近では物価高騰や社会保険料の引き上げ、増税などによって生活コストが上がっているため、支払う側も「毎月きちんと養育費を支払うだけで精一杯」という声が少なくありません。

実際、「払いたくないから拒否している」のではなく、「本当に払えない」という事情を抱えているケースも多いのです。
収入が増えていないどころか、リストラや業績不振で減収になっている場合もあります。
特に、自営業者やフリーランスの場合は収入が不安定で、「払いたいけれど払えない月もある」という現実に直面しています。

それでも「子どものために」という思いから、何とか工面して養育費を支払っているものの、そこへ追加の増額請求が来ると、「もうこれ以上は無理だ」と感じるのは無理もありません。
支払う側としても、「こちらの生活が苦しいことも理解してほしい」と受け取る側との温度差に悩んでいることがあります。

調停・審判は長期戦!時間も金銭的負担もかかる

調停や審判に持ち込めば、最終的には裁判所が判断を下してくれます。
しかし、その道のりは決して平坦ではありません
「裁判所に申し立てれば、すぐに白黒つく」と考えている方も多いですが、現実は予想以上に時間がかかり、精神的・経済的な負担も大きいものです。

まず、調停の申立てから第1回目の期日が決まるまでに1ヶ月~2ヶ月ほどかかることが一般的です。
そこから、月1回ペースで調停が開かれるので、双方の意見が対立している場合は3回~5回程度の期日を要することも珍しくありません。

さらに、調停で合意に至らず不成立となれば、自動的に審判に移行します。
審判に移行すると、家庭裁判所の裁判官が資料や主張をもとに判断しますが、ここでも追加で数ヶ月かかります。

また、調停・審判では弁護士に依頼する場合の費用も決して小さくありません。
着手金や期日ごとの出廷費用や追加書面の作成費用など、決して安くはない費用がかかります。
さらに、審判の結果に不服があれば異議申し立てをすることも可能ですが、そうなれば時間も費用もさらに膨らむことになります。

このように、「裁判所が何とかしてくれる」と安易に考えるのではなく、長期戦を覚悟した上で、最初から冷静な交渉を心がけることが何より大切です。調停・審判は最後の手段と考え、できる限り事前の話し合いや専門家を交えた交渉で解決を目指すのが、親子にとってもベストな選択と言えるでしょう。

トラブルを避けるためのポイント

養育費の増額をめぐるトラブルを防ぐためには、事前の備え冷静な対応が欠かせません。
特に、離婚時には目の前の話し合いに意識が集中しがちですが、数年後の生活や子どもの成長に伴う支出増まで見据えた取り決めをしておくことが、将来の揉め事を避けるカギになります。

実際に、最初の取り決めでそこまで考えが及ばなかった結果、「こんなにお金がかかるとは思わなかった」「ここまで状況が変わるとは予想していなかった」というケースが非常に多いのです。そのため、以下のポイントに気をつけて取り決めをしておくことが大切です。

離婚時に「見直し条件」をしっかり取り決める

養育費を話し合う際には、「今後何が起きたら再協議するのか」「どのタイミングで見直しを検討するのか」という見直しルールをあらかじめ決めておくことが非常に重要です。

例えば、「子どもが高校や大学に進学した際には、その都度教育費について協議する」「支払う側の年収が大幅に増減した場合には見直しを検討する」といった具体的な条件を文書化しておけば、後から「約束していない」「そんな話は聞いていない」といった水掛け論を避けることができます。

こうした見直しルールを最初から明文化しておくことで、見直し自体が悪いことではなく、最初から想定済みのプロセスであると双方が共通認識を持つことができるのです。

資料や根拠を整え、感情論ではなく事実で説明する

養育費の増額を求める際に最も大切なのは、具体的なデータや証拠をもとに説明することです。
単に「お金が足りません」「生活が厳しいです」と言われても、支払う側からすれば「それはそちらのやりくりの問題では?」と受け止められてしまう可能性があります。

また、「もっと子どもに良い教育を受けさせたい」といった親心を伝えることも大事ですが、それだけでは相手の説得材料としては弱いのです。

教育費の増加を理由に増額を求めるなら、入学案内や学費の見積もりを提示したり、医療費が増えた場合には診療明細書や領収書を見せたりと、客観的な根拠を示すことで相手の納得感は大きく変わります。

事実に基づいた冷静な説明を心がけることで、「必要な費用なんだ」と現実的に理解してもらえる可能性が高まります。
逆に、「あなたの収入が増えたんだからもっと払ってよ」といった感情的な要求は、余計に相手の反発を招くので注意が必要です。

話し合いで合意した内容は必ず公正証書に残す

増額に合意できた場合でも、口頭の約束で済ませるのは非常に危険です。
特にLINEやメールでのやり取りは、相手の気分次第で「そんな話はしていない」「一時的な話だった」と後から覆されるリスクがあります。

養育費は長期間にわたる支払いになるため、その場の感情やその時の関係性に頼らず、きちんとした法的文書で残すことが重要です。

特に公正証書は、「強制執行認諾文言」という強力な一文を加えることができるため、支払いが滞った際には裁判を経ずに給料や預金を差し押さえできるメリットがあります。

一度きちんと公正証書を作っておけば、支払いがスムーズにいかなくなった場合にも迅速な対応が可能になるので、安心感が違います。こうしたリスク管理をしっかり行うことが、後のトラブル回避につながるのです。

まとめ

養育費の増額は、子どもの成長や親の生活環境の変化に応じて必要になる場合もありますが、単なる感情論や一方的な主張では相手の理解は得られません。増額を求める側・拒否する側、それぞれの事情や本音を理解し、冷静かつ丁寧に話し合うことが何より重要です。

また、離婚時に「将来の見直しルール」を明文化しておく、増額交渉時には客観的な資料を揃える、合意内容は公正証書に残すなど、事前の備えもトラブル回避には欠かせません。養育費はあくまで「子どものため」のもの。双方が感情的にならず、未来を見据えた冷静な対応を心がけることが、子どもの幸せにつながる第一歩です。

小川たけひろ行政書士事務所では、養育費の悩み相談、公正証書作成サポートなどを承っております。

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