公正証書の「正本」「謄本」「原本」の違いや再発行の手続き・保管体制を詳しく解説

「公正証書を再発行したいけど、“正本”と“謄本”って何が違うの?」 「原本はどこに保管されているの?」 「どれが本物で、どれが使えるのか、よくわからない…」

こうした疑問は、決して珍しいものではありません。公正証書は、離婚協議や遺言、金銭の貸し借り、後見契約など、人生の重要な場面で関わってくる法的文書です。そのため、「いざ使おう」と思ったときに必要な書類が見つからなかったり、正本と謄本の違いを知らずに手続きを進めようとしてトラブルになることも少なくありません。

また、原本は持ち出しができない書類であることから、「自分で管理していたはずなのに…」という行き違いも起こりやすいのが現実です。

この記事では、行政書士の立場から、初めての方にもわかりやすく、以下のポイントを丁寧に解説していきます。

  • 公正証書に出てくる「正本」「謄本」「原本」の意味と違い
  • 紛失時などの再発行の手続きや注意点
  • 災害が起きたときにも安心できる原本の保管体制

これらの知識を押さえておけば、公正証書を安心して管理・活用することができ、将来のトラブル回避にもつながります。

公正証書とはどんな文書?そのしくみや特徴、活用場面

公正証書とは、公証人という法律の専門職が、当事者からの依頼を受けて内容を確認・作成し、法律に則って正式な形で「認証する」文書のことを指します。「認証する」とは、公証人がその文書の内容や署名の真正性などを法律に従って確認し、「これは正式なものとして法的効力を持たせてもよい」と認める行為を指します。

つまり、「認証された文書=公的に信頼できる証拠として認められる文書」ということです。これにより、その文書は私文書とは異なり、裁判所での証拠能力が極めて高く評価され、一定の条件下では裁判を経ることなく強制執行が可能となります。たとえば、金銭の支払いを定めた契約であれば、債務者が支払いを怠った際に、裁判を起こすことなく給料や財産の差押えなどの措置をとることができます。

このように、公正証書は法律的なトラブルを未然に防ぎ、将来の安心を確保する手段として広く活用されています。

主な利用場面は以下のとおりです。

  • 離婚給付契約(養育費や慰謝料の支払い、財産分与などを明文化する)
  • 遺言書(公正証書遺言として作成することで紛失や無効のリスクを減らせる)
  • 金銭貸借契約(借用書では不安という場合に法的効力を強化)
  • 任意後見契約(将来の判断能力低下に備えたサポート体制を法的に整える)

これらはあくまで代表的な例であり、事業承継や親族間の契約、身元保証契約など、さまざまな場面で公正証書は活用されています。

また、近年注目されているのが「尊厳死宣言公正証書」です。これは、終末期に延命治療を望まないという本人の意思を明確にしておくための文書で、公証人がその意思を確認し、公正証書として作成するものです。医療機関や家族に対して自分の意思を伝える手段として有効であり、将来的なトラブルや迷いを避けることにもつながります。尊厳死宣言は法律上の強制力はありませんが、公正証書として作成されていることで、意思の真正性が高く評価され、尊重されやすくなります。

このように、公正証書は、人生のあらゆる局面において「備え」としての役割を果たしてくれる存在です。

公正証書における「正本」「謄本」「原本」とは?

次に、公正証書にはそれぞれ「原本」「正本」「謄本」というものがあります。それぞれの用語が具体的にどのような役割を持ち、どんな場面で必要になるのかを丁寧に解説していきます。正確に理解しておくことで、書類の取り違えや不備によるトラブルを防ぐことができ、公正証書をより安心して活用できるようになります。

原本とは?

原本は、公証役場に保管される“唯一無二の書類”です。これは外部に持ち出すことはできません。公証人が作成し、署名押印した元の書面であり、正本や謄本といった写しを作成する際の元になる文書です。

原本は、まさに「公正証書の原点」ともいえる存在であり、他のいかなる文書よりも優先される証拠力を持ちます。つまり、正本や謄本に記載された内容に疑義が生じた場合でも、最終的な判断の基準となるのは、常に公証役場に保管されている原本なのです。

この原本は法律に基づいて厳重に管理され、万が一の災害や事故に備えてスキャンデータとしても保管されるなど、徹底した体制のもと保全されています。そのため、たとえ手元に写しがなくなったとしても、原本が存在する限り、正本や謄本の再交付が可能となるのです。

正本とは?

正本は、原本と同じ効力を持つ写しであり、最も法的効力が高い複製書類です。例えば養育費や慰謝料、金銭貸借契約などに関して債務者が約束を守らなかった場合、正本があれば裁判を経ずに強制執行(財産差押えなど)を行うことが可能です。そのため、実務上でも「公正証書の正本」は非常に重要な書類とされています。

正本は原則として1通のみの発行とされており、これは複数枚発行することで不正利用や混乱が生じるのを防ぐためです。万が一紛失や破損をした場合には、「正本の再交付請求」という手続きを通じて再発行を申請する必要があります。ただし、再交付には正当な理由が必要であり、本人確認書類の提示、場合によっては代理人による申請も可能ですが、その際は委任状や追加書類が求められることもあります。

また、正本の交付は作成された公証役場に限られます。

謄本とは?

謄本は、原本の内容をそのまま書き写した文書であり、公正証書の「内容を確認したい」ときなどに使用されることが一般的です。正本のように法的強制力は持たず、あくまで“内容を証明”する役割にとどまります。そのため、強制執行などの実行力が求められる法的手続きには使用できません。

ただし、謄本は内容を証明する目的では非常に有効であり、家庭裁判所や金融機関での手続きの際の資料提出など、多くの場面で活用されています。複数通の発行が可能な点も特徴で、正本と異なり「必要な都度、追加で申請できる」点は利用者にとって大きな利便性となっています。

また、申請者本人以外でも、委任状を提出すれば代理人による取得も可能です。コピーを取りやすく、保管にも適しているため、重要な内容を再確認したいときには謄本の取得を検討するとよいでしょう。

公正証書の再発行の具体的な手続きと注意点

公正証書を紛失してしまった、あるいは追加で必要になったというケースは決して珍しくありません。相続や離婚、契約トラブルなど、重要な局面で「正本や謄本が手元にない」と気づいたときには、速やかに再発行の手続きを進める必要があります。ただし、公正証書の再発行は誰でも自由にできるものではなく、申請できる人や必要書類、申請方法について一定のルールが定められています。

ここでは、正本・謄本それぞれの再発行手続きの違いや、実務上の注意点について解説します。

正本の再発行

正本の再発行は本人による申請が原則ですが、代理人による申請も可能です。その際は、本人の署名・押印がある委任状と、本人および代理人双方の本人確認書類の提示が求められます。特に正本は法的効力が強いため、申請理由や代理関係の確認が厳格に行われることがあります。代理申請を予定している場合は、事前に作成した公証役場へ確認しておくとスムーズです。

正本は1通のみの発行が原則です。紛失した場合、再発行を受けるには、

  • 原本保管の公証役場に再交付申請
  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 必要に応じて委任状
  • 手数料(通常は250円/枚) が必要です。

謄本の再発行

謄本は複数通の取得が可能であり、必要なときに公証役場に申請すれば発行してもらえます。たとえば、相続人が内容確認のために取得したり、役所や金融機関など第三者に提出する目的で複数部の取得を希望する場合にも対応が可能です。

また、申請者が本人でなくても代理人による申請が認められており、その際には委任状と代理人の本人確認書類が必要になります。ただし、申請内容や目的によっては、公証役場が個別に確認を行うこともあるため、事前に連絡を入れて確認しておくことが望ましいでしょう。

謄本はコピーとしての取り扱いがしやすく、正本ほどの厳格さは求められません。そのため、家庭内での確認用や、将来の備えとして複数部保有しておくケースも増えています。

郵送申請も可能

遠方に住んでいる場合などは、郵送による申請も可能です。事前に電話で問い合わせをし、必要書類や手数料、送付先などの詳細を確認しておくと安心です。基本的には、申請書類と本人確認書類の写し、返信用封筒(切手貼付済・住所記入済)を同封して郵送すれば、自宅に再発行された正本または謄本が届きます。

公証役場によっては、提出前に申請内容や書類に不備がないかを確認してくれることもありますので、郵送前にチェックリストを作成しておくのもよいでしょう。急ぎの場合は、速達や書留などでのやり取りも可能です。郵送申請は来所が難しい方や、仕事や介護などで時間が限られている方にとって、非常に便利な手段となっています。

正本と謄本、どちらが必要?手続きごとに異なる「使い分け」

公正証書の写しである「正本」と「謄本」は、見た目が似ていても法的効力が異なり、使う場面も大きく異なります。目的に合った書類を選ぶことは、手続きをスムーズに進めるために欠かせないポイントです。誤って無効な書類を提出してしまうと、再手続きが必要になるケースもあるため、事前の確認がとても重要です。

では、どのような手続きにどちらの書類が必要になるのでしょうか。

遺産分割や相続登記

遺産分割手続きや相続登記の場合、関係する公正証書といえば公正証書遺言です。これらの手続きには、遺言書の正本が必要となることがほとんどです。登記申請などには正本の提出が求められることが多く、謄本では代用できません。たとえば、相続人全員が遺言の内容に同意していたとしても、登記官は“正本の有無”によって手続きが正式なものかどうかを判断します。

そのため、形式が整っていないと、申請そのものが却下される可能性があります。見た目は似ていても、正本と謄本では扱いがまったく異なるため、注意が必要です。また、金融機関での相続預金の払戻手続きでも、正本の提出が求められるケースが多く、これが手元にないことで書類を一から揃え直す必要が出てくるなど、手続き全体が大きく遅れる事態に発展することもありますので注意が必要です。

金銭の強制執行

金銭などの強制執行を行う場合は、給付契約書の正本が必要になります。たとえば離婚のときに、養育費や財産分与など金銭の支払いを約束した場合、裁判を経ずに相手の給与や財産を差し押さえるために、強制執行認諾条項が付いた公正証書を作成することが多いのですが、万が一養育費や慰謝料の支払いが滞った場合、正本がなければ執行手続きができません。

謄本では法的強制力が認められないため、仮に内容が同一でも執行手続きは進められません。こうした事態を避けるためにも、正本は大切に保管しておく必要があります。

※ 離婚協議書や養育費に関する契約書の作成については、当事務所の『離婚・男女間契約書等作成サポート』ページをご参照ください。⇒ こちら

内容の確認や証明

家庭内での確認、行政書士への相談、あるいは相続人同士での話し合いや、契約内容の再確認などには謄本で対応可能です。謄本は証明書類としての性質があり、正本ほどの法的強制力はありませんが、書面の内容を把握するには十分な情報が含まれており、日常的な手続きの中では広く使われています。

多くの方が「とりあえず謄本があればいい」と考えがちですが、実際には書類の用途によって必要な種類が大きく異なります。たとえば、正本が必要な場面では、謄本では効力を発揮できないため、再交付の手間が生じることもあります。

また、正本と謄本は見た目には似ていますが、文面や記載形式に差異がある場合もあり、受け取った書類がどちらなのかを把握しておくことも大切です。特に、相続・離婚・契約解除など、人生の節目に関わる公正証書では、書類の選択が将来のトラブル回避につながります。

公証役場で申請する際には、自分の手続き目的を明確に伝えることで、適切な書類を交付してもらえるようにしておきましょう。

原本はどこでどう保管されている?災害時の備えも万全

あまり知られていませんが、公正証書の原本は公証役場だけでなく、厳重にバックアップ体制が敷かれています。

複数のデータセンターに保管

日本公証人連合会では、作成された公正証書のスキャンデータを、全国にある複数のデータセンターへ分散保管しています。この分散保管は、地震や火災、洪水といった自然災害だけでなく、人的ミスやシステム障害などによるリスクにも備えるものです。各拠点は地理的に離れて配置されており、仮に1カ所が被災しても他の拠点から即座にデータを復旧できる仕組みが整っています。

また、これらのデータは定期的にバックアップされており、災害時のデータ損失リスクを最小限に抑える工夫が施されています。このようにして、公証役場に保管されている原本に万一のことがあっても、スキャンデータにより内容を正確に復元できる万全の体制が整備されています。

紙と電子の二重保管

紙媒体としての原本は各地の公証役場内に厳重に保管されています。これらの紙の原本は、施錠された保管庫などで適切な温度・湿度管理のもとに管理され、日常的に第三者が触れられないよう徹底された管理体制が敷かれています。

加えて、原本の内容はスキャンによってデジタルデータとしても保存されており、そのデータは専用のクラウドサーバー上に安全に保管されています。このクラウドは、災害に備えて複数拠点のデータセンターに分散して設置されており、仮に一部の施設が被災した場合でも、他の拠点から迅速にバックアップを復元できる仕組みが整っています。

このような紙と電子の二重体制によって、日本全国どこかの公証役場が災害により機能を停止したとしても、他の地域から迅速に内容を復旧できる堅牢な構造になっているのです。

公正証書の再発行で気をつけるべきこと

行政書士の実務では、以下のような公正証書に関するトラブルのご相談が多く寄せられます。

・離婚後、養育費や慰謝料の支払いを強制執行しようとしたところ、離婚給付契約公正証書の正本を紛失していたたため執行が不可能になってしまった。  

・公正証書遺言の正本が見つからず、遺産分割手続きが中断してしまった。

・長期間保管していたつもりの書類が、引っ越しや介護施設入所の際に紛失・廃棄されていたことが発覚した。

こうしたケースでは、法的手続きの大幅な遅延や、再発行までのやり取りで大きな手間と費用がかかることもあります。

そのため、次のような事前対策が非常に重要です。

  • 公正証書を受け取ったら、内容を確認したうえでコピーを複数とっておく(紙・デジタル両方がおすすめ)
  • 保管場所を信頼できる家族や関係者に共有し、「いざという時」に取り出せる状態にしておく
  • 紛失や破損の可能性が生じた場合は、できるだけ早く作成した公証役場へ相談し、再発行手続きを検討する

公正証書は、作成時だけでなく「将来どう管理するか」も極めて重要です。せっかく法的に有効な文書を作成しても、保管や再取得が不十分であれば、その効力を十分に活かすことができません。

まとめ

公正証書の「正本」「謄本」「原本」には明確な違いがあります。特に、強制執行や相続手続きでは「正本」が不可欠です。原本は公証役場で厳重に保管され、災害にも対応できる体制が整っていますが、正本や謄本の管理はご本人の責任となります。

一度でも紛失や混同をしてしまうと、再発行には時間と手間がかかることも。だからこそ、正確な理解と丁寧な保管、そして必要に応じた専門家への相談が安心につながります。

公正証書に関する不安やお困りごとがある場合は、お気軽に小川たけひろ行政書士事務所までご相談ください。離婚協議書、遺言、公正証書の作成・再発行など、状況に応じた最適なアドバイスのご提供や手続きの代行を承ります。

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