「来月から仕事をお願いできなくなりました」
「今回の契約期間が終わったら、次回の更新はありません」
継続的に仕事を受注していたクライアントから、突然このような連絡を受けたらどうでしょうか。
フリーランスやクリエイターにとって、継続案件の終了は収入に直接影響する重大な問題です。
イラスト制作、動画編集、Webデザイン、ライティング、写真撮影、SNS運用などの仕事では、同じクライアントから数か月、場合によっては数年間にわたって継続的に仕事を受けることがあります。
継続案件が安定した収入源になっているフリーランスも少なくありません。
しかし、契約内容を十分に確認していなかったために、
「突然契約を打ち切られた」
「来月も仕事があると思っていたのに更新されなかった」
「契約終了の理由を説明してもらえなかった」
「契約が終了したため、急に収入が減ってしまった」
といったトラブルが起こることがあります。
2024年11月1日に施行されたフリーランス新法では、一定の継続的な業務委託について、発注事業者が契約を中途解除したり、契約を更新しなかったりする場合のルールが設けられています。
ただし、
「フリーランス新法があるから契約を解除されることはない」
というわけではありません。
大切なのは、法律のルールを知ることに加えて、契約を締結する段階で「契約をどのように終了するのか」を明確にしておくことです。
この記事では、フリーランス・クリエイターが知っておきたい契約解除・契約不更新の問題と、フリーランス新法のルールについて行政書士がわかりやすく解説します。
フリーランスの継続案件は突然終了することがある
フリーランスとして仕事をしていると、一度限りの仕事だけでなく、継続的に仕事を依頼されることがあります。
たとえば、
・毎月YouTube動画を5本編集する
・毎月Webサイトの記事を10本執筆する
・継続的にSNSの投稿画像を制作する
・企業のWebサイトを定期的に更新する
・毎月一定数のイラストを制作する
といった契約です。
継続案件は、フリーランスにとって安定した収入を確保できるという大きなメリットがあります。
しかし、取引が長期間続いているからといって、今後も仕事が続くとは限りません。
発注者側の事情によって、
「事業を縮小することになった」
「予算を削減することになった」
「別のクリエイターに依頼することになった」
「社内で制作することになった」
「プロジェクトそのものが終了した」
などの理由から契約が終了することがあります。
問題になるのは、契約終了についてのルールが明確になっていない場合です。
「契約解除」と「契約不更新」は何が違う?
契約終了の問題を考えるときには、「中途解除」と「不更新」の違いを理解しておく必要があります。
中途解除とは
中途解除とは、契約期間の途中で契約を終了させることです。
たとえば、
「2026年4月1日から2027年3月31日まで」
という1年間の業務委託契約を締結していたにもかかわらず、発注者から、
「2026年10月31日で契約を終了します」
と通知された場合です。
本来の契約期間が終了する前に契約関係を終了させるため、「中途解除」となります。
不更新とは
不更新とは、契約期間が満了した後、次の契約を更新しないことです。
たとえば、
「契約期間は6か月とし、双方から申し出がなければ6か月ごとに更新する」
という契約を締結していたとします。
発注者から、
「今回の契約期間満了をもって契約を終了し、次回は更新しません」
と通知された場合が不更新です。
中途解除と不更新は契約終了の方法として異なります。
そのため、業務委託契約書を作成するときには、それぞれのルールを明確にしておくことが重要です。
なぜ契約解除・不更新のトラブルが起こるのか
契約終了をめぐるトラブルが起こる大きな原因は、契約書の内容が不十分だからです。
たとえば、
「契約期間を定めていない」
「自動更新について定めていない」
「中途解除できる条件が書かれていない」
「何日前までに通知するのか決めていない」
「通知方法が決められていない」
といったケースがあります。
特に注意したいのが、長期間にわたって同じクライアントから仕事を受けている場合です。
取引が長く続くと、
「これからも仕事をもらえるだろう」
「特に問題がないから契約書を見直す必要はないだろう」
と思ってしまうことがあります。
しかし、発注者とフリーランスの認識が同じとは限りません。
フリーランスは「今後も仕事が続く」と考えていた一方で、発注者は「必要なときだけ仕事を依頼している」と考えている可能性もあります。
こうした認識の違いを防ぐためにも、契約内容を書面で明確にしておく必要があります。
フリーランス新法とは?
フリーランス新法の正式名称は、
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
です。
2024年11月1日に施行されました。
フリーランスが発注者との取引において不利な立場に置かれることを防ぎ、安心して働ける環境を整備することなどを目的としています。
フリーランス新法では、
・取引条件の明示
・報酬支払期日の設定
・報酬の減額など一定の行為の禁止
・募集情報の的確な表示
・育児や介護への配慮
・ハラスメント対策
など、さまざまなルールが定められています。
そして、その一つが「中途解除等の事前予告・理由開示」です。
参考情報
フリーランス新法の制度や詳しい内容については、公正取引委員会の公式サイトもご確認ください。
▶ 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」
関連記事
フリーランスが安心して仕事を続けるためには、契約終了時のルールだけでなく、仕事を始める前に契約内容を明確にしておくことが大切です。
▶業務委託契約書って本当に必要?~口約束で仕事を受けると起こりやすいトラブル~
6か月以上の継続的業務委託では30日前までの予告が原則
フリーランス新法では、一定の継続的業務委託について、発注事業者が契約を中途解除したり、契約期間満了後に更新しなかったりする場合、原則として少なくとも30日前までに予告しなければならないとされています。
対象となるのは、6か月以上の期間行う業務委託です。
契約更新によって6か月以上継続することになった場合も含まれます。
ポイント
6か月以上継続する一定の業務委託契約を発注者が中途解除したり、更新しなかったりする場合には、原則として30日前までの予告が必要です。
たとえば、1年間の継続的な業務委託契約を締結しているフリーランスに対して、
「来週から仕事を依頼しません」
と突然通知することは、フリーランス新法上の問題となる可能性があります。
フリーランスは継続案件から得られる報酬を生活費や事業資金として予定していることがあります。
突然仕事を失えば、次の取引先を探す時間もありません。
そこで、一定の期間を設けることによって、フリーランスが新しい仕事を探すための準備期間を確保できるようにしているのです。
30日前に予告すれば自由に契約を解除できるわけではない
ここは非常に重要なポイントです。
フリーランス新法による「30日前までの予告」と、契約そのものを解除できるかどうかは別の問題です。
たとえば、契約書に、
「契約期間中は原則として中途解除できない」
と定められているにもかかわらず、発注者が一方的に契約を解除した場合を考えてみましょう。
発注者が30日前に予告したからといって、必ず契約解除が有効になるとは限りません。
契約解除が認められるかどうかについては、
・契約書の内容
・解除条項
・解除に至った理由
・当事者の契約違反の有無
などを個別に確認する必要があります。
注意
「30日前までに通知すれば、発注者はいつでも自由に契約を終了できる」という意味ではありません。フリーランス新法上の事前予告義務と、契約解除の有効性は分けて考える必要があります。
契約終了の理由を開示してもらえる場合がある
継続的業務委託について中途解除や不更新の予告を受けたフリーランスは、
「なぜ契約を終了するのですか?」
と疑問に思うことがあります。
フリーランス新法では、一定の場合に、フリーランスが理由の開示を求めたときは、発注事業者が中途解除や不更新の理由を開示しなければならないとされています。
ただし、いつでも無条件に理由開示を請求できるわけではありません。
原則として、中途解除や不更新の予告を受けた日から契約が終了する日までの間に請求する必要があります。
そのため、契約終了の通知を受けた場合には、そのまま放置するのではなく、
「契約終了の理由を確認したい」
「理由の開示を求めるべきか検討したい」
と早めに対応することが大切です。
30日前の予告が不要となる例外もある
フリーランス新法では、一定の場合には30日前までの事前予告が不要となる例外も定められています。
たとえば、
・災害など、予告することが困難なやむを得ない事情がある場合
・発注者が受けていた仕事が解除され、再委託していた業務の大部分が不要になった場合など
・一定の短期間の個別契約を解除する場合
・フリーランス側に責任のある事情がある場合
などです。
したがって、
「6か月以上取引しているから、どのような場合でも必ず30日前の予告が必要」
とは限りません。
具体的な契約内容や契約終了の理由を確認する必要があります。
よくあるトラブル事例
ケース1 突然「来週で契約終了」と言われた
動画編集者Aさんは、企業から毎月10本の動画編集を依頼され、8か月間継続して仕事をしていました。
ところが突然、
「会社の方針が変わったため、来週で契約を終了します」
と連絡を受けました。
Aさんにとって、この仕事は毎月の収入の大きな部分を占めていました。
突然仕事がなくなったため、新しいクライアントを探す時間もありません。
このような場合には、フリーランス新法の中途解除等の事前予告に関するルールが適用される可能性があります。
ケース2 自動更新されると思っていた
WebライターBさんは、6か月間の業務委託契約を締結していました。
それまで契約は何度も更新されていたため、今回も当然更新されると思っていました。
しかし、契約期間終了直前になって、
「今回で契約終了です」
と通知されました。
契約書には自動更新について明確な規定がありませんでした。
このようなトラブルを防ぐためには、
・契約期間
・自動更新の有無
・不更新の通知期限
を契約書に明記しておくことが重要です。
ケース3 理由を説明してもらえない
イラストレーターCさんは、1年以上継続して企業から仕事を受けていました。
ところが突然、
「次回の契約更新はありません」
と通知されました。
Cさんが理由を尋ねても、
「会社の判断です」
としか説明してもらえませんでした。
一定の条件を満たす場合には、フリーランス新法に基づいて理由の開示を求めることを検討できます。
契約書に定めておきたい契約終了のルール
契約解除や不更新をめぐるトラブルを防ぐためには、業務委託契約書に契約終了のルールを定めておくことが重要です。
1.契約期間
まず、
「いつからいつまでの契約なのか」
を明確にします。
たとえば、
「本契約の有効期間は、2026年4月1日から2027年3月31日までとする」
という形です。
2.契約更新
次に、契約期間満了後の取り扱いを決めます。
・契約期間満了で終了する
・双方が合意した場合に更新する
・一定期間前までに申し出がなければ自動更新する
などの方法があります。
3.中途解除
契約期間の途中で契約を終了できるのかを定めます。
たとえば、
・30日前までに通知する
・60日前までに通知する
・一定の理由がある場合に解除できる
などです。
4.契約違反があった場合の解除
相手方に重大な契約違反があった場合の解除についても定めておきます。
たとえば、
・報酬が支払われない
・納期を繰り返し守らない
・秘密保持義務に違反した
・著作権を侵害した
などの場合です。
5.通知方法
契約解除や不更新の通知方法も重要です。
「言った」「聞いていない」というトラブルを防ぐため、
・書面
・電子メール
など、記録が残る方法を定めておくとよいでしょう。
契約条項の例
契約終了に関する条項としては、たとえば次のような形が考えられます。
契約期間・更新条項の例
本契約の有効期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までとする。ただし、期間満了日の30日前までに甲または乙から書面または電子メールによる契約終了の意思表示がない場合、本契約は同一条件で○か月間更新されるものとし、以後も同様とする。
また、中途解除については次のような条項が考えられます。
中途解除条項の例
甲または乙は、相手方に対し、契約終了日の30日前までに書面または電子メールにより通知することによって、本契約を中途解除することができる。ただし、法令によりこれを上回る義務が課される場合には、当該法令の定めに従うものとする。
ただし、契約条項は業務内容や取引関係によって適切な内容が異なります。
インターネット上の契約書のひな形をそのまま使用するのではなく、自分の仕事や取引方法に合った内容にすることが重要です。
契約終了を告げられたときに確認したいこと
クライアントから突然契約終了を告げられた場合には、感情的に対応するのではなく、まず契約内容を確認しましょう。
契約終了時のチェックリスト
□ 契約書はあるか
□ 契約期間はいつまでか
□ 自動更新条項はあるか
□ 中途解除条項はあるか
□ 解除の通知期限は定められているか
□ 6か月以上継続して業務委託を受けているか
□ 契約終了の通知日はいつか
□ 契約終了日はいつか
□ 契約終了の理由を確認したか
□ 未払いの報酬はないか
□ 納品済みの成果物の取り扱いを確認したか
□ 制作途中の成果物の取り扱いを確認したか
□ 著作権の帰属を確認したか
□ 秘密保持義務が契約終了後も続くか確認したか
□ データの返還・削除について確認したか
一つでも不明確な点がある場合には、契約書やこれまでのメール、チャットなどの記録を確認しましょう。
契約終了後にも確認すべき問題がある
契約が終了すれば、すべての問題が終わるわけではありません。
たとえば、
・未払い報酬
・制作途中の成果物
・納品済み成果物の著作権
・ポートフォリオへの掲載
・秘密情報の取り扱い
・データの返還や削除
などの問題があります。
特に注意したいのが、著作権や秘密保持義務です。
契約そのものが終了しても、契約条項によっては秘密保持義務が継続することがあります。
また、制作したイラスト、動画、写真、文章などの著作権が誰に帰属するのかについても、契約終了時に改めて確認する必要があります。
契約書を作成するときには、
「契約を結ぶとき」
だけでなく、
「契約が終わった後」
まで考えておくことが重要です。
関連記事
契約終了後のトラブルを防ぐためには、制作したイラスト・動画・デザインなどの著作権が誰に帰属するのかを確認しておくことも重要です。
▶ 著作権は誰のもの?依頼されたイラスト・動画・デザインの権利は誰に帰属するのか
関連記事
契約が終了した場合でも、すでに納品した成果物や完了した仕事の報酬についてトラブルが起こることがあります。
▶ 納品したのに報酬が支払われない?フリーランスが知っておきたい検収・納品・支払時期の契約ルール
フリーランスこそ「仕事の終わり方」を契約書で決めておく
フリーランス・クリエイターの契約書というと、
「報酬はいくらか」
「何を制作するのか」
「いつまでに納品するのか」
といった点に目が向きがちです。
もちろん、これらは重要な契約条件です。
しかし、同じくらい重要なのが、
「契約をどのように終了するのか」
というルールです。
継続的な取引では、いつか契約が終了する可能性があります。
そのときになって初めて話し合うのではなく、
・契約期間
・契約更新
・中途解除
・不更新
・通知期限
・通知方法
・契約終了後の取り扱い
をあらかじめ決めておくことで、トラブルを防ぎやすくなります。
まとめ
フリーランス・クリエイターにとって、継続案件は安定した収入につながる大切な仕事です。
しかし、長期間取引を続けていたからといって、契約が今後も続くとは限りません。
突然の中途解除や契約不更新によるトラブルを防ぐためには、業務委託契約書に契約終了のルールを明確に定めておくことが重要です。
また、フリーランス新法では、6か月以上の継続的業務委託について、発注事業者が契約を中途解除したり更新しなかったりする場合、原則として30日前までの予告が必要とされています。
一定の場合には、フリーランスから求められたときに契約終了の理由を開示する義務もあります。
ただし、
「30日前までに予告すれば自由に契約解除できる」
というわけではありません。
契約解除の可否については、契約書の内容や解除理由なども確認する必要があります。
フリーランス・クリエイターが安心して仕事を続けるためには、仕事を始めるときだけでなく、「仕事をどのように終わらせるのか」まで契約書で明確にしておくことが大切です。
フリーランス・クリエイター向け契約書の作成・チェックをご検討の方へ
「契約書の解除条項がこの内容でよいのかわからない」
「自動更新の契約書を作成したい」
「クライアントとの継続取引に合った契約書を作りたい」
「インターネットで見つけた契約書のひな形をそのまま使ってよいのか不安」
このようなお悩みはありませんか。
フリーランス・クリエイターの契約では、報酬、納期、検収、修正、著作権だけでなく、契約期間、更新、中途解除、不更新などのルールを明確にしておくことも重要です。
小川たけひろ行政書士事務所では、フリーランス・クリエイターの業務内容や取引方法をお伺いしたうえで、それぞれの取引に合わせた契約書の作成・チェックを承っています。
契約トラブルが起きてから対応するのではなく、安心して仕事を続けるための契約書を準備しておきませんか。
フリーランス・クリエイター向け契約書の作成・チェックについて、お気軽にご相談ください。
大切な約束を書面に残しませんか
業務委託契約書、利用規約、著作権、報酬に関する取り決めなど、
フリーランスやクリエイターの活動を法務面からサポートします。

コメント