フリーランスやクリエイターとして活動していると、
「まずは作業を始めてください」
「金額は後で相談しましょう」
「予算はあるので安心してください」
「内容が固まってから報酬を決めましょう」
といった依頼を受けることがあります。
特に、SNS経由の依頼や知人からの紹介案件、小規模事業者との取引では、契約書や見積書を作成しないまま仕事が始まることも少なくありません。
しかし、受注金額を明確に決めないまま仕事を引き受けることは、思わぬトラブルにつながる可能性があります。
実際に、フリーランスと発注者との間で発生するトラブルの多くは、「仕事をしたのに思ったより報酬が少ない」「追加作業ばかり増える」「支払いが遅れる」「報酬が支払われない」といった金銭的な問題です。
この記事では、受注金額を決めないまま仕事を引き受けた場合に起こり得るトラブルと、その予防策について解説します。
なぜ報酬額を決めないまま仕事が始まるのか
企業同士の取引では、契約書や発注書によって業務内容や報酬額を事前に決めるのが一般的です。
しかし、フリーランスやクリエイターの世界では、
- SNSのDMで依頼を受ける
- 長年付き合いのある取引先だから安心だと思う
- 急ぎの案件なので先に着手する
- 業務内容がまだ固まっていない
- 継続案件のため毎回条件を確認していない
- 「予算はあるので大丈夫」と言われた
といった理由から、報酬額が曖昧なまま仕事が始まることがあります。
依頼を受けた段階では、
「後で話し合えば大丈夫だろう」
と思うかもしれません。
ところが、その曖昧さこそがトラブルの原因になるのです。
トラブル① 想定していた報酬額と大きく違う
最も多いのが、報酬額に対する認識の違いです。
例えば、ホームページ制作を依頼されたケースを考えてみましょう。
受注者は、
「この内容なら15万円程度になるだろう」
と考えていたとします。
一方で発注者は、
「5万円くらいで依頼できると思っていた」
と考えていたかもしれません。
双方が報酬額について確認しないまま作業を進めた結果、納品後になって大きな認識のズレが発覚します。
このようなケースでは、
「そんなに高いとは思わなかった」
「その金額では引き受けていない」
という話になり、関係が悪化してしまうことがあります。
トラブル② 作業範囲について認識が違った
報酬額を決めていない案件では、作業範囲も曖昧になりがちです。
例えば、
「ホームページを作ってほしい」
という依頼を受けたとします。
受注者は、
- トップページ
- 会社概要ページ
- お問い合わせページ
程度を想定していたかもしれません。
しかし発注者は、
- ブログ機能
- SEO設定
- バナー制作
- SNS連携
まで含まれていると思っていることがあります。
お互いの認識が一致していないため、
「そこまでやるつもりはなかった」
「当然含まれていると思っていた」
という対立が生じます。
トラブル③ 修正依頼が際限なく増える
クリエイターの仕事で特に多いのが修正対応の問題です。
例えば、
「ロゴデザインを作成してほしい」
という依頼だったにもかかわらず、
- 色を変更してほしい
- フォントを変えてほしい
- 別案も見てみたい
- やはり最初の案に戻したい
など、何度も修正依頼が繰り返されることがあります。
報酬額も修正回数も決まっていなければ、
どこまで対応すべきなのか判断できません。
結果として、本来想定していた何倍もの時間を費やしてしまうことがあります。
トラブル④ 時給換算すると大赤字になる
仕事を引き受けた時点では、
「それほど時間はかからないだろう」
と思っていたとしても、実際には多くの時間が必要になることがあります。
例えば、
- 動画編集
- イラスト制作
- Web制作
- ライティング
などは、打ち合わせや修正対応によって工数が大きく増える傾向があります。
完成後に支払われた報酬を計算すると、
「何十時間も作業したのに時給換算すると数百円だった」
ということも珍しくありません。
トラブル⑤ 支払時期が決まっていない
報酬額だけでなく、支払時期が曖昧なケースもあります。
納品後に、
「来月支払います」
「経理処理が終わったら振り込みます」
「資金繰りが落ち着いたら支払います」
と言われることがあります。
支払期限を決めていなければ、いつまで待てばよいのか分かりません。
場合によっては数か月間支払われないこともあります。
トラブル⑥ 報酬そのものが支払われない
最悪の場合、報酬が全く支払われないケースもあります。
依頼者が、
「そんな金額を払う約束はしていない」
「正式な契約はしていない」
と主張することもあります。
仕事をした事実があったとしても、報酬額についての合意内容が明確でなければ、回収が難しくなることがあります。
法律上はどうなるのか
「契約書がなければ請求できないのですか?」
という質問を受けることがあります。
結論から言えば、契約書がなくても契約が成立している場合はあります。
契約は必ずしも書面でなければ成立しません。
例えば、
- メール
- LINE
- チャット
- SNSのDM
などのやり取りによって契約が成立することもあります。
しかし問題は、後からトラブルになったときに何を証明できるかです。
報酬額や業務内容について明確な記録がなければ、
「そんな話はしていない」
と言われてしまう可能性があります。
そのため、
- 業務内容
- 報酬額
- 支払時期
- 修正対応の範囲
について記録を残しておくことが重要です。
フリーランス新法でも取引条件の明示が求められている
2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆる「フリーランス新法」)では、発注者に対して取引条件の明示が求められています。
具体的には、
- 業務内容
- 報酬額
- 支払期日
などを、書面やメールなどの方法で明示しなければならないとされています。
これは、条件が曖昧なまま取引を進めた結果、フリーランスが不利益を受けることを防ぐためです。
つまり、
「金額は後で決めましょう」
という取引そのものが、大きなリスクを含んでいるといえるでしょう。
報酬トラブルを防ぐための対策
1. 着手前に報酬額を決める
最も重要な対策です。
少なくとも、
「何を、いくらで行うのか」
は作業開始前に決めておきましょう。
2. 見積書を作成する
業務内容が確定していない場合は、
- 基本料金
- オプション料金
- 追加料金
を明記した見積書を作成することをおすすめします。
3. 作業範囲を明確にする
業務内容を具体的に決めておきましょう。
例えば、
「トップページを含む5ページ作成」
のように具体的に記載しておくと認識の違いを防ぎやすくなります。
4. 修正回数を決める
例えば、
「修正は2回まで無料」
「3回目以降は1回5,000円」
などと定めておけば、際限のない修正依頼を防ぐことができます。
5. 支払期限を決める
報酬額だけでなく、
「納品後7日以内」
「月末締め翌月末払い」
など支払時期も決めておきましょう。
6. 契約書を作成する
継続案件や高額案件では、業務委託契約書を作成することをおすすめします。
契約書には、
- 業務内容
- 報酬額
- 支払方法
- 著作権の帰属
- 修正対応
- 契約解除
などを定めることができます。
まとめ
受注金額を決めないまま仕事を引き受けることは、
- 報酬額の認識違い
- 作業範囲の認識違い
- 修正回数を巡るトラブル
- 支払遅延
- 未払い
といった問題の原因になります。
仕事が始まる前は、
「後で決めれば大丈夫」
と思うかもしれません。
しかし、その曖昧さが後々大きなトラブルを招くことがあります。
フリーランスやクリエイターが安心して仕事を進めるためには、
- 何を行うのか
- いくらで行うのか
- いつ支払うのか
- どこまで対応するのか
を事前に明確にしておくことが大切です。
大切な仕事だからこそ、「後で決める」ではなく「最初に決める」を意識しましょう。
大切な約束を書面に残しませんか
業務委託契約書、利用規約、著作権、報酬に関する取り決めなど、
フリーランスやクリエイターの活動を法務面からサポートします。

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